「駅すぱあとアンテナ」2021年12月号 「木の温もりと湯」





 
寒くなる季節に恋しくなる温泉。今月は、木の温もりを感じさせてくれる、文化財に登録された温泉宿をご紹介します。ぜひ癒しのひとときを過ごしてみませんか?

山形県尾花沢市にある銀山温泉は、川のせせらぎと大正浪漫の風情を残す温泉郷です。

"銀山"という名は、江戸時代に巨大な銀の鉱山があったことが由来です。

温泉郷として栄えていましたが、やがて銀山は衰退し、大正時代には大洪水によって大半の温泉宿が流される憂き目に遭いました。

同時に温泉の湧出量も減少。川の水も入り込んでしまい、温度が上がらずに温泉の利用も伸びませんでした。しかし、昭和に入ってすぐに高温多量の湯が噴出したことで息を吹き返します。

その際、多くの旅館が3~4層の洋風木造建築に建て替えを行いました。橋や道路も整備され、かつての賑わいを取り戻します。戦後に入ると洋風から和風への改築が進行。そしてNHK連続テレビ小説「おしん」の舞台になったことで知名度は全国へ広がります。近年では新幹線の延伸も観光客増につながりました。

風情ある宿は今も川沿いに残り、現在も「家並み保存条例」によって、他に類を見ない景観が守られています。特に銀世界が広がる冬の景観は、息を呑むほどの美しさ。立ち並ぶガス灯の淡い光がレトロな雰囲気を醸し出しています。

そんな銀山温泉を象徴するような宿が、赤い欄干の橋の先に建つ能登屋旅館です。大正時代の建てられた木造3階建の建物は、和風を基調としながらも、バルコニー付きの玄関や、建物の屋根から突き出た塔屋部分が談話室になっていたりと、モダンな要素がちりばめられているところも魅力のひとつ。木材がふんだんに使われた建物全体が、国の登録有形文化財に指定されています。

お風呂は、大浴場と露天風呂に加え、旅館から高台へと続く階段を上った先には展望露天風呂があり、ここから白銀の滝を望むことができます。また、開業当時から元湯として利用されている洞窟風呂も、貸切風呂として健在です。

大正時代の趣が漂う中、木の温もりと湯を満喫できる宿でくつろいでみませんか。
銀山温泉(山形)
能登屋旅館

次は、古くから"湯治ができる宿場町"として栄えていた信州の渋(しぶ)温泉です。

地面を掘ればすぐに湯が出るといわれるほど、湯量は豊富。源泉が数多く存在し、渋温泉のすべての旅館が100%源泉かけ流しの風呂を有しています。泉質もバラエティに富み、無色透明な湯から赤みを帯びた鉄泉、白濁した湯など多種多彩です。

温泉街の石畳も、懐かしい情緒を感じさせてくれます。お土産屋はもちろん、射的屋や卓球場、紙芝居や怪獣のソフトビニール人形が並ぶギャラリーなどもあり、古き良き温泉街の散策を楽しめます。

また、渋温泉の宿に泊まると、温泉街にある9つの外湯を利用できるのも魅力のひとつ。外湯も100%源泉かけ流しでそれぞれに個性があり、共同浴場として機能しているため、地元の方々と交流する機会も生まれます。また、歩き疲れたらひと休みできる足湯も2か所あり、至れり尽くせりです。

温泉街の中央に位置し、ひときわ目立っている建物が「歴史の宿 金具屋」。江戸時代から地域の人々の療養や遊興のために営業がスタートし、太平洋戦争中には疎開、戦後には療養の宿として機能していました。

同館の魅力は、なんといっても建築。昭和11年に完成した「金具屋斉月楼」と「金具屋大広間」は、国の登録有形文化財に指定されています。

「金具屋斉月楼」は、杉の通し柱13本で立ち上げられた木造4階建ての楼閣。客室はそれぞれ家屋に見立てられ、玄関や土間、次の間、本間、縁側などがつくられています。そのため4階建てでありながら、部屋数はわずか7つ。贅沢な造りとなっていますが、その一方で宮大工による庶民的な遊び心も随所に見られ、どこか庶民的な雰囲気があるのも魅力のひとつです。

「金具屋大広間」は、座敷部分が130畳、舞台が30畳、廊下や床の間を入れると200畳を超える、文字通りの大広間。和風建築に見えるものの、西洋建築の技法も織り交ぜることで柱のない巨大空間が実現しています。これら建築の見どころや細部を説明してくれる宿泊客向けの館内ツアーも人気です。

映画「千と千尋の神隠し」に出てくる湯屋のような世界観を、ぜひお楽しみください。
歴史の宿 金具屋

その他、木の温もりが感じられる温泉宿を3つご紹介しましょう。

まずは温泉どころとして知られる群馬県。利根郡みなかみ町の「法師温泉 長寿館」は、三国峠のふもとに位置する渓谷の一軒宿です。

開業は明治8年。本館のたたきを上がると吹き抜けの玄関があり、そこにはトチノキの火鉢が据えられています。さらに左手には、茶釜の湯が沸く囲炉裏端。宿に着くやいなや、古き良き日本の温もりで、もてなされている気分になります。

本館と、昭和15年建築の別館、そして明治28年に建てられた鹿鳴館様式の「法師乃湯」が、国の登録有形文化財です。

法師乃湯は、かつて国鉄の「フルムーン」キャンペーンのポスターで、上原謙さんと高峰三枝子さんが入浴していた、あのお風呂。建築されてから1世紀以上が経っており、浴槽の底に敷き詰められた玉石の間から、豊富な湯が自然湧出しています。なお、法師乃湯の脱衣所は男女別ですが、湯船は混浴。午後8時から午後10時までは女性のみの入浴となります。

次にご紹介するのは、同じく群馬県の四万(しま)温泉。温泉街の中心に掛かる朱塗りの橋とのコントラストが映える「積善館」です。

元禄4年(1691年)に本館が建築され、その3年後に旅籠として開業。明治時代に増築が行われ、昭和に入ると大正ロマンの雰囲気が漂う洋風モダンな「元禄の湯」が建てられました。この湯は今もなお健在で、脱衣所と浴室が一体となった古いスタイルが残るなど、同館の象徴的存在となっています。

さらに桃山様式の「山荘」、純和風の「佳松亭」といった宿泊棟も新たに建築。「山荘」は職人の技術が注ぎ込まれた美しい「組子障子」が使われており、国の登録有形文化財に指定されています。歴史が育んだ風情の中、くつろぎのひとときを過ごせます。

次の宿は「あまみ温泉 南天苑」。大阪と高野山を結ぶ旧高野街道沿いに佇む、山間の温泉旅館です。

その建物設計は、東京駅や日本銀行本店など近代日本を代表する建築を手がけた辰野金吾氏によるもの。同氏が設計に携わったことが確実となる資料が読み解かれたことで、国の登録有形文化財に指定されました。

内装は数寄屋風を基調に、ところどころ茶室建築を思わせるような意匠が施されています。また囲炉裏の間は、骨とう品や書が展示された落ち着きの空間。四季折々の表情を見せる日本庭園は3000坪と広く、これからの季節はサザンカやツバキ、「南天苑」の名前の由来にもなっているナンテンの実が彩りを添えます。温泉の泉質は、天然ラドンを豊富に含んだラジウム泉です。

文化財としての価値を持つ温泉宿で、木の温もりと湯に癒されてみてはいかがですか。
法師温泉 長寿館
四万温泉 積善館
あまみ温泉 南天苑
【 鉄道 】
JRは、JR時刻表2021年12月号の内容に対応
私鉄および公営は、2021年11月17日現在の時刻表に対応
<ダイヤ改正>
●大阪モノレール
2021/12/11 改正
<臨時ダイヤ>
●京阪石清水八幡宮参道ケーブル
2021/11/12~12/5 夜間特別運転
●京都市営烏丸線
2021/11/20~28の土休日  臨時列車運転
●千光寺山ロープウェイ
2021/12/1~24 定期検査に伴う運休
●西武鉄道
2021/12/04 「LIONS THANKS FESTA 2021」開催に伴う臨時ダイヤ
●小樽天狗山ロープウエイ
2021/12/4~ 冬季営業開始
●須磨浦ロープウェイ
2021/12/6~2022/2/10の平日 運休
●高尾登山電鉄
2021/12/9・13~17 時刻変更
●筑波山ケーブル
2021/12/13~17・20~24 定期検査に伴う運休
●筑波山ロープウェイ
2022/1/31~2/4 定期検査に伴う運休
   
詳細は駅すぱあと改訂情報をご覧ください。
協賛:交通新聞社 http://www.kotsu.co.jp/
次回2022年1月号は、2021年12月22日(水)配信予定です。お楽しみに!
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発行  株式会社ヴァル研究所 https://www.val.co.jp/
発行日 2021年11月24日(水)
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