その他、木の温もりが感じられる温泉宿を3つご紹介しましょう。
まずは温泉どころとして知られる群馬県。利根郡みなかみ町の「法師温泉 長寿館」は、三国峠のふもとに位置する渓谷の一軒宿です。
開業は明治8年。本館のたたきを上がると吹き抜けの玄関があり、そこにはトチノキの火鉢が据えられています。さらに左手には、茶釜の湯が沸く囲炉裏端。宿に着くやいなや、古き良き日本の温もりで、もてなされている気分になります。
本館と、昭和15年建築の別館、そして明治28年に建てられた鹿鳴館様式の「法師乃湯」が、国の登録有形文化財です。
法師乃湯は、かつて国鉄の「フルムーン」キャンペーンのポスターで、上原謙さんと高峰三枝子さんが入浴していた、あのお風呂。建築されてから1世紀以上が経っており、浴槽の底に敷き詰められた玉石の間から、豊富な湯が自然湧出しています。なお、法師乃湯の脱衣所は男女別ですが、湯船は混浴。午後8時から午後10時までは女性のみの入浴となります。
次にご紹介するのは、同じく群馬県の四万(しま)温泉。温泉街の中心に掛かる朱塗りの橋とのコントラストが映える「積善館」です。
元禄4年(1691年)に本館が建築され、その3年後に旅籠として開業。明治時代に増築が行われ、昭和に入ると大正ロマンの雰囲気が漂う洋風モダンな「元禄の湯」が建てられました。この湯は今もなお健在で、脱衣所と浴室が一体となった古いスタイルが残るなど、同館の象徴的存在となっています。
さらに桃山様式の「山荘」、純和風の「佳松亭」といった宿泊棟も新たに建築。「山荘」は職人の技術が注ぎ込まれた美しい「組子障子」が使われており、国の登録有形文化財に指定されています。歴史が育んだ風情の中、くつろぎのひとときを過ごせます。
次の宿は「あまみ温泉 南天苑」。大阪と高野山を結ぶ旧高野街道沿いに佇む、山間の温泉旅館です。
その建物設計は、東京駅や日本銀行本店など近代日本を代表する建築を手がけた辰野金吾氏によるもの。同氏が設計に携わったことが確実となる資料が読み解かれたことで、国の登録有形文化財に指定されました。
内装は数寄屋風を基調に、ところどころ茶室建築を思わせるような意匠が施されています。また囲炉裏の間は、骨とう品や書が展示された落ち着きの空間。四季折々の表情を見せる日本庭園は3000坪と広く、これからの季節はサザンカやツバキ、「南天苑」の名前の由来にもなっているナンテンの実が彩りを添えます。温泉の泉質は、天然ラドンを豊富に含んだラジウム泉です。
文化財としての価値を持つ温泉宿で、木の温もりと湯に癒されてみてはいかがですか。