山形県と秋田県にまたがる鳥海山は、東北では2番目の標高2,236mを誇る名峰。山麓のブナの原生林が広がるエリアは「中島台レクリエーションの森」として整備され、1周約5kmの遊歩道で森林浴を楽しむ多くの人々が訪れています。
その中でもひときわ異彩を放っているのが、写真のブナです。樹齢300年、幹回り7.62mの巨大なブナは「あがりこ大王」と呼ばれています。
「あがりこ」とは、地面のすぐ上で、子どもの枝が分岐しているという意味。江戸時代末期から昭和にかけて行われていた炭焼きのために枝が伐採され、切られたところから再び芽が出て成長を続けたことが、こうした樹形になった理由だと言われています。童話の世界であれば、森の王様として今にも喋り出しそうな雰囲気です。
「あがりこ大王」に限らず、他のブナも個性的な樹形をしています。中には、1本の木から十数本の幹が伸び、まるで子だくさんの女性のように見えることから「あがりこ女王」と名付けられたブナもあります。
紅葉の見頃は、例年11月上旬までで、今がまさにピークです。ブナは紅葉というよりも"黄葉"で、赤くならずに黄色から黄金色へと移り変わります。その色彩も、どこか西洋の童話のようであり、異形のブナとマッチしているように思えます。
なお、森には「出つぼ」と呼ばれる池をはじめ11ヵ所の湧水池があり、そこから流れ出た伏流水が獅子ヶ鼻湿原を作り出しています。この湿原には貴重なコケが存在し、水の中でボール状に発達した「鳥海まりも」は、獅子ヶ鼻湿原でしか見ることができません。
それではここで、他の地域でブナが見られる場所を紹介しましょう。右の写真は、新潟県十日町市に広がるブナ林。「あがりこ大王」とは打って変わって、樹齢約100年のブナの幹がまっすぐ、すらりと伸びています。その美しさから、ついた名前が「美人林」。紅葉のシーズンは、例年11月初旬から中旬にかけてで、林全体がオレンジに色づきます。
その他、滋賀県高島市の朽木・葛川県立自然公園区域に広がる「生杉のブナ原生林」や、長野県と新潟県をまたぎ、「森太郎」「森姫」と呼ばれるブナの巨木が立つ鍋倉山なども、メルヘンの世界を彷彿とさせる森の風景を満喫できます。お近くの方はぜひ足を運んでみてはいかがですか。
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あがりこ大王 中島台レクリエーションの森(にかほ市)
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