「駅すぱあとアンテナ」2021年10月号 「懐かしの学び舎」





 
少子化によって小学校や中学校の閉校が相次ぐ中、校舎や校庭を再利用する試みが全国各地で行われています。今回は、観光資源として活用されているスポットに注目してみました。懐かしさと新しさが共存する"かつての学び舎"の魅力をご紹介します。

まずは廃校活用で注目を集める2つの施設をご紹介します。一つ目は高知県室戸市にある、むろと廃校水族館です。

かつてこの地にあった旧椎名小学校が、斬新なアイデアで改修されて水族館に生まれ変わったのは2018年のこと。かねてより、この地でウミガメの学術調査を行っていた日本ウミガメ協議会が市から運営を任されています。

展示されている海の生物は約50種類、1000匹以上。地元漁師の定置網にかかった生物や、職員自ら釣りあげた魚が大半です。イルカやアシカといった大型水族館の人気動物がいないにも関わらず、オープンから3か月半ほどで初年度の目標入場者数4万人を突破。ネガティブな印象となりがちな"廃校"という言葉を、あえて名称に含ませたことで注目を集めました。現在も各自治体から、廃校利用の成功例として視察に訪れる人が多いとのことです。

同時に、学校らしさをそのまま活かした施設により、ノスタルジーを感じながら楽しめるところも大きな魅力。25mプールにシュモクザメやエイ、ウミガメなどが悠々と泳いでいる姿は、なんとも不思議でワクワクします。廊下に面した手洗い場にはヒトデやカニがいて、実際に触れられるタッチプールとして機能。跳び箱を活用した水槽など、ユニークな発想が随所に活かされています。

また、図書室に魚の図鑑が並んでいたり、理科室に深海魚などの標本が展示されているのも、元学校ならでは。懐かしい気分に浸りながら学べるようになっています。

続いては、京都府京都市にある京都国際マンガミュージアム。博物館と図書館、双方の要素を併せ持つ施設です。多くの外国人観光客が訪れる京都から、日本発のムーブメントとしてマンガ文化を世界に発信するべく、平成16年に誕生しました。

建物は、明治2年に開校した龍池(たついけ)小学校を活用。かの福沢諭吉が「学問のすゝめ」を発行したのが明治5年で、学問の大切さが徐々に人々の間に浸透してきた頃でした。この小学校の建築費用は、すべて地域住民の寄付で賄われました。その後、増改築が行われ、平成7年に周辺の4つの小学校と統合。長い歴史に終止符が打たれました。

現在、館内には5万冊のマンガが所蔵され、自由に読むことができます。同時に、幕末期の風刺画から現在のマンガに至るまでの流れや、マンガやアニメーションの制作技法を紹介する展示、昔懐かしい紙芝居を上映するエリアや約3,000冊の絵本が読めるエリアなど、さまざまな角度からマンガにスポットを当て、理解できるようになっています。

さらに、廊下や石造りの階段、校長室、柱時計など、学校の面影も色濃く残っています。校庭には人工芝が敷かれ、そこでのんびりと寝そべりながらマンガを読んだり、階段に腰かけながら読むことも可能。かつてマンガは悪書とみなされ、学校と相容れない存在だった時期もありましたが、大きな時代の流れと変化を感じられる施設となっています。
むろと廃校水族館
京都国際マンガミュージアム

廃校は、老朽化によって取り壊されるところも少なくありません。そんな中、地域の方々や、母校を愛する卒業生たちの努力によって懐かしい姿が保存・リノベーションされ、見学可能なところもあります。

右の画像は、福島県昭和村の「喰丸(くいまる)小」。昭和12年に創立し、昭和55年に廃校となった旧・喰丸小学校が改修され、平成30年に誕生した交流・観光拠点施設です。

廃校から生まれ変わるまでの歳月は、37年間。ゆっくりと朽ちていく運命にありましたが、この建物、この風景を残したい人びとが立ち上がり、工事費用の一部はクラウドファンディングによって賄われました。老朽化が進む建物の改修工事は困難を極めましたが、腐食した柱部分を継ぎ木したり、外壁の板材を極力再利用するなど、現在の建築法に則り再生されました。

教室や廊下も当時の姿が再現され、椅子に座るとタイプスリップしたような感覚に包まれます。窓の外を眺めると、そこには校庭に立つ樹齢180年の大イチョウ。敷地内に新たに建てられた「蕎麦カフェ SCHOLA」からも、この大イチョウを眺めながら美味しいそばを食べられます。

続いては、茨城県久慈郡大子町にある旧上岡(うわおか)小学校です。明治12年に創立し、明治44年に現在の地に移転されました。昭和に入り、児童数の増加に伴って第二棟、第三棟を増築。最盛期には250名以上の児童がこの学び舎に通っていました。

平成13年、児童数の減少によって閉校となりましたが、代々この学校に通ってきた地元の方々が中心となり、母校を保存するために上岡小跡地保存の会が発足。明治の頃の面影を残す校舎が管理され、見学できるようになっています。

建物の中央に玄関を構える、木造平屋造り。その姿を眺めるだけでも心打たれますが、校舎内も時が止まったような雰囲気が漂っています。木製のサッシと、古びた窓ガラス。落書きや彫刻刀で彫った跡が残る机や椅子。黒板やチャイムの鉄琴、丸い郵便ポスト。窓の外に広がる山々と田んぼ。学校の裏山は、キツネにまつわる民話の舞台です。

続いては、長野県飯田市にある旧木沢小学校。かつてこの地は秋葉街道の要所に位置する宿場町で、遠山森林鉄道の起点としても栄えました。

創立は昭和7年で、廃校となったのは平成12年。今では、資料館・イベントスペースとして活用されています。

2年生教室は"山の資料館"として南アルプスに関する資料が展示され、4年生教室は"林鉄資料館"として森林鉄道の資料を展示。さらに図書室では、小学校の旧蔵書や寄贈本など4,000冊以上の閲覧が可能です。これらは住民の手作りによるもので、地域の方々の交流拠点としても機能しています。南アルプスの木造の学び舎は、とても風情豊かで温もりに包まれています。
喰丸小
旧上岡小学校
旧木沢小学校

現在も、全国各地で廃校利用が進められています。今はまだ校舎内に入ることはできませんが、今後の活用が見込まれている旧小学校を2つご紹介しましょう。

まずは岡山県高梁市にある旧吹屋小学校。明治6年に拡智小学校として開校しました。東校舎や西校舎は明治33年、本館は明治42年の建築です。

講堂内部の天井や演壇、天井を支えるトラス構造などは、当時の建築手法を今に伝える貴重なもの。平成24年に閉校するまで、現役の木造校舎としては国内最古とされていました。その後、貴重な文化遺産を残すべく、6年がかりで保存修理に着手。今年3月に工事用の足場などが取り外され、往時の姿を観光客も再び見られるようになりました。

工事は来年3月に完了し、情報発信施設として観光拠点になる予定です。

次にご紹介するのは、熊本県葦北郡の旧赤崎小学校。画像をご覧いただくと、驚かれる方も多いかもしれません。日本で唯一、海の上に建てられた学校です。

開校は明治7年。当初は民家を借り受けてのスタートでした。昭和51年、狭い用地を有効に利用するため、海にせり出したかたちで建築され、客船をイメージした現在の姿となりました。平成22年に児童数減少によって閉校となり、現在建物は立ち入り禁止となっていますが、校門は開放されており、敷地内を散策することができます。目の前にある小さな島は、満潮時には海に埋もれ、干潮時には陸続きとなり歩いて渡ることが可能。海と共に育ってきた生徒たちの歓声が、今にも聞こえてくるようです。

これまでアートプロジェクトの場として利用されてきており、今後も様々なプロジェクトやイベントでの活用が見込まれています。

懐かしい小学校の校舎が様々な使われ方をして、今後も地域の拠点となり続けることを期待したいと思います。
旧吹屋小学校
旧赤崎小学校
【 鉄道 】
JRは、JR時刻表2021年10月号の内容に対応
私鉄および公営は、2021年9月21日現在の時刻表に対応
<ダイヤ>
●関東鉄道常総線
2021/10/2 改正
<臨時ダイヤ>
●近畿日本鉄道
2021/10/2~ 全特急列車運転再開
●西武池袋線、山口線、新宿線
2021/10/7~10・18~20 プロ野球公式戦開催に伴う臨時ダイヤ
●西武池袋線、秩父線
2021/10/16~11/28 一部特急列車の吾野駅臨時停車
   
詳細は駅すぱあと改訂情報をご覧ください。
次回2021年11月号は、2021年10月27日(水)配信予定です。お楽しみに!
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発行  株式会社ヴァル研究所 https://www.val.co.jp/
発行日 2021年9月29日(水)
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