清らかな水が流れる街を、さらに3つご紹介しましょう。
まずは山形県南部に位置する長井市。長井の"井"は、"水の集まるところ"という意で、最上川の上流に位置し、古くから最上川舟運で栄えてきました。現在も多くの商家が立ち並び、国の有形文化財に登録されている建築も少なくありません。
街には小川や水路が網目のように張り巡らされています。元々は川の氾濫を抑えるために作られたそうですが、共用の水路から敷地内に水を引き込む「入り水」と呼ばれる水路もあり、生活用水として古くから利用されてきました。珍しいのは、小出地区にある立体交差型の水路。十字に水が流れ、上方の水路から溢れた水を下方の水路が受け止め、自然と水量が調整されるようになっています。
初夏から秋にかけては、水中に生えている梅花藻(ばいかも)と呼ばれる植物が開花。流れる水に身を任せ、涼しげに揺れる可憐な花に癒されながらの散策が可能です。
次におすすめするのは、福井県大野市です。"越前おおの"と呼ばれるこの地は、戦国時代に築かれた越前大野城と、城下に広がる碁盤目状の町並みが残っていることから、"北陸の小京都"とも呼ばれています。
この地の特徴は、古くから地下水が豊富であること。現在も多くの家庭が自家製ポンプを所有し、自ら汲み上げて生活に利用しています。街中には「本日の地下水の水位」を表示する看板が点在しており、地域ぐるみで地下水を大切にしていることが伺えます。
湧水スポットは市内に点在し、その多くは飲用可能。そのうちのひとつ「御清水(おしょうず)」は、かつて殿様のご用水として利用されていたことから「殿様清水」と呼ばれることも。年間を通じて水温が一定しているため、夏は冷たく、冬は温かく感じます。また、「平成の名水百選」にも選ばれている「本願清水」は、清らかな水を好むイトヨという魚の生息地として国の天然記念物に指定され、多くの観光客が訪れています。
次は岐阜県飛騨市の飛騨古川と呼ばれるエリアです。
有名な飛騨高山の北に位置しているため"高山の奥座敷"と呼ばれていますが、JR高山駅からJR飛騨古川駅まで普通列車でも20分とかからないため、高山で朝市を堪能した後に、古川の散策を楽しむといった方も多くみられます。
古川も高山と同様に、江戸時代に天領(幕府直轄領)として発展を遂げてきました。白壁の土蔵や寺の石垣に沿って伸びる瀬戸川用水周辺は、この地を象徴するスポット。約400年前、田んぼをつくる目的で城のお濠から水を引いたことが始まりです。今では約1,000匹もの鯉が泳ぎ、道行く人の目を楽しませてくれます。興味深いのは、冬から春にかけて鯉たちの引っ越しが行われること。冬の用水路は、積もった雪を流す流雪溝として機能します。晩秋と春に、地元の人々が協力して鯉を引っ越しさせる作業は、この地の風物詩です。
先人の知恵が注がれた水路が、今も残る街。いつか散策してみたいものです。