野生の桜の中で、慎ましい印象を抱くのはマメザクラです。
自生しているのは主に本州中部や伊豆半島。富士山周辺や箱根近辺にも自生しているため、フジザクラやハコネザクラとも呼ばれることがあります。北陸や近畿地方に自生するキンキマメザクラも、この桜の仲間です。
名前に"マメ"とあるように、花は小ぶりで下向きに咲きます。樹高も3~10mほどで他の桜よりも低く、樹高1mくらいから花をつけるため、庭木や盆栽などにも適しています。ヤマザクラよりも標高が高いところで咲き、伊豆半島の西天城高原での見頃は例年4月中旬から下旬にかけて。同じく静岡県の達磨山高原もマメザクラの名所として知られています。
野生の桜の中でもとりわけ早咲きなのは、オオシマザクラ(大島桜)。関東以南の島々で見られ、近年は本土にも植樹されています。
葉に生えている毛が少ないため、桜餅に主に使われるのは、このオオシマザクラの葉です。また、薪に使われていたことからタキギザクラの別名もあります。また、花と葉が同時に出るため、全体的に緑がかった白い印象になるのが特徴です。
前述の通り、ソメイヨシノのルーツでもあるオオシマザクラは、突然変異による八重咲なども生まれやすく、多くの園芸品種を生んでいます。室町時代に生まれたフゲンソウや、江戸時代に生まれたカンザンは、日本各地でよく見られる八重桜の代表格。また、オオシマザクラの早咲きの特徴を受け継いだのが、伊豆にいち早く春を呼ぶ河津桜です。
最後にご紹介するのはクマノザクラ。日本に自生する基本野生品種は9種(含めるべきか議論が続いている寒緋桜を入れると10種)でしたが、2018年に新種が約100年ぶりに発見されました。それがクマノザクラで、和歌山県、三重県、奈良県にまたがる紀伊半島南部の固有種です。地元では長い間、早咲きのヤマザクラだとみなされていました。
ソメイヨシノよりも開花が早めで、花は白や淡い紅色。樹高は低めで枝が細いため、可憐な美しさが引き立っています。調査によってその本数は次第に増えつつあり、地元ではクマノザクラの観光ガイドや保全運動が行われるようになりました。
桜を知ることで広がる、春の楽しみ。ぜひ散歩がてら、桜の品種にも注目してみてはいかがですか。