「駅すぱあとアンテナ」2021年3月号 「鉄道の新時代」





 
未来へ向けて、鉄道の世界にも新たな波がやってきています。今月は、鉄道の未来を担う各地での取り組みをご紹介。平穏な日常が戻った際には、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。

阿佐(あさ)海岸鉄道は、徳島県の阿波海南駅と、高知県の甲浦駅間を結ぶ阿佐東線(あさとうせん)を管轄する第三セクター。列車は海沿いをのんびりと走り、ローカル線の旅の風情が味わえます。

この地で、世界初となる取り組みが行われていることをご存じでしょうか。それは、鉄道線路と道路、その両方を走行できる車両「DMV(Dual Mode Vehicle)」の本格営業運行です。当初は2020年度中の運行開始を予定していましたが、新型コロナウイルス感染拡大による工事の遅れなどにより、2021年の夏頃の営業スタートとなります。

3台の車両は、マイクロバスをベースに改造。カラーリングは太平洋の波をモチーフにした青、名産品であるスダチをイメージした緑、維新への情熱を込めた赤の3種類です。

一般道路では、鉄車輪を忍ばせて通常の車のようにゴムタイヤで走ります。レール走行への切り替えは、道路と線路をつなぐモードインターチェンジにて実施。車体の下から鉄車輪が現れると同時に、前輪のゴムタイヤは浮き、後輪のゴムタイヤは駆動輪となってレールの上を走る仕組みです。

驚きなのは、その切り換えが15秒ほどで済んでしまうこと。地域に住まう人々はもちろん、観光においても利便性がアップします。また、災害時には道路と線路、どちらでも走行できる利点を活かして交通が維持されるよう期待されています。

鉄道モードでは阿波海南駅と甲浦駅間を走行。バスモードでは、阿波海南文化村、海の駅東洋町、道の駅宍喰温泉、むろと廃校水族館、室戸世界ジオパークセンター、室戸岬、海の駅とろむなど、周辺の主要観光地にアクセスします。

旅のプランのひとつとしては、DMVで室戸岬までダイレクトにアクセスして観光。その後はバスを利用して土佐くろしお鉄道のごめん・なはり線の奈半利駅に向かえば、徳島から高知市内へのスムーズな観光が可能となります。大きな期待を背負ったDMVに、ぜひご注目ください。
阿佐海岸鉄道

次にご紹介するのは、次世代型路面電車システムと称されるLRT(Light Rail Transit)です。

従来の路面電車とLRTの違いは、「騒音や振動が少なく、床が低く平らな車両」「バリアフリー化された停留場」「時間に正確な運行」「他の交通手段との連携がスムーズ」などの点が挙げられます。高齢な方やベビーカーを利用している方、車いすの方など、あらゆる人にとって利用しやすい交通手段となることを目指したものです。

日本初の新設LRTは、2006年4月に導入された富山ライトレール富山港線です。道路に敷設された併用軌道と、JR時代の専用軌道、双方を走る路面電車として注目を集めました。公共交通を活性化させることで、その沿線に住宅や商業施設などを集め、コンパクトな"歩いて暮らせるまち"をつくろうという目的です。

2020年2月には、富山地方鉄道と合併。富山駅を挟んで南北の軌道がつながり、路面電車が直通運転するようになりました。なお、富山駅停留場は新幹線の高架下にあり、そこに車両が乗り入れる姿も鉄道ファンに人気を博しています。

市民にとっても利便性が向上したことはもちろん、市内観光の移動手段としても活用されています。富山駅停留場から海に面した岩瀬浜まで、乗車時間は約25分。岩瀬は江戸初期から北前船の港町として栄え、廻船問屋が立ち並んでいた旧北国街道沿いには、明治時代に建てられた家屋がいくつも残存しています。

また、海越しの立山連峰を眺める絶景スポットは、氷見の雨晴海岸が有名ですが、そこまで足を運ぶ時間がない場合は、岩瀬浜がおすすめ。LRTの車両を一緒にカメラに収めることもできます。

さて、富山の事例を皮切りに日本でLRTが普及していくのかというと、道のりは平坦ではありません。かねてから導入を検討している地域は複数あるものの、導入コストや運営コストなどの課題に加え、昨今はコロナ禍により協議や工事が思うように進んでいない実状があるのも事実です。

栃木県の芳賀・宇都宮LRTは、2023年の開業を目指して整備が進んでいます。環境への配慮などから富士スバルライン上にLRTを走らせ、山麓と五合目を結ぶ富士山登山鉄道構想も先日ニュースで話題となりました。来るべき社会にフィットする交通手段、LRTに期待が集まります。
富山地方鉄道

新型コロナウイルスは、さまざまなことに影響を及ぼしています。昨年3月に予定されていた、東海道新幹線「700系」のラストランも中止となりました。その一方で、着々と新たな新幹線計画が進行しています。

まずは九州新幹線の西九州ルート。現在は武雄温泉駅・長崎駅間の約66kmの整備が進められています。開業予定は2022年の秋ごろ。武雄温泉駅で、博多駅・武雄温泉駅間を運行する在来線特急列車と同じホームで乗り換えを行う「対面乗換方式」が採用されます。なお、列車名は九州を走る列車としてお馴染みの「かもめ」です。開業により、博多駅と長崎駅間は現行よりも約30分、短縮されるとの試算が出ています。

また、北陸新幹線も延伸工事が進んでおり、2023年春の開業予定です。金沢駅から西へ小松駅、加賀温泉駅、芦原温泉駅、福井駅、南越駅(仮称)を経て敦賀駅までを結びます。

そして、鉄道会社の中には、コロナ禍ならではのサービスを打ち出すところもあります。

JR九州は、自宅にいながらにして旅行気分が味わえるオンライン旅行を実施。第1弾は、「ゆふいんの森1号」で、令和2年7月豪雨で被災し、一部区間で不通が続いていた久大本線が2021年3月1日(月)に全線で運転再開することに伴い、同日にオンラインツアーが行われます。残念ながら募集期間は過ぎていますが、第2弾、第3弾のツアーが待たれます。

仕事(work)と休暇(vacation)を組み合わせた造語である「ワーケーション」を取り入れた試みを行ったのは、しなの鉄道の観光列車「ろくもん」です。個室をワークスペースとして利用できるようにし、車内にはWi-Fi環境も整備。通常の換気に加えて、途中停車駅などで空気の入れ替えも行います。ツアーは2泊3日で、トレインワーケーションの他、沿線地巡りや郷土料理体験、旅先でのワークスペース体験に加えて、参加者同士の交流機会も。とても興味深い試みです。

世の中がどのように変化しようとも、鉄道がなくなることはありません。各鉄道会社のこれからの取り組みに、ぜひご注目ください。
 
 
 
       
次回2021年4月号は、2021年3月31日(水)配信予定です。お楽しみに!
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発行日 2021年2月24日(水)
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