「駅すぱあとアンテナ」2024年7月号 「初夏の名勝、旬の味覚」

 


今月の特集は、初夏から夏にかけて美しい風景が広がる地と、旬を迎えるご当地名産品をご紹介。景色もグルメも両方楽しむ夏の旅へ、今年は出かけてみませんか?

まずご紹介するのは高知県西部、"日本最後の清流"と名高い四万十川です。

以前、5月に開催される「こいのぼり川渡し」を特集でご紹介しましたが、色濃い緑に覆われる夏の四万十川も"古き良き日本の夏休み"といった風情たっぷりで魅力的です。初夏は蛍が乱舞する名所でもあります。

見どころは、この地特有の沈下橋。増水時、川に沈むようにあらかじめ設計された、欄干のない橋のことです。

四万十川には支流も含めて60以上の沈下橋が架かっていますが、最もポピュラーなのは最下流に位置する佐田沈下橋(今成橋)でしょう。沈下橋の中でも最長で、水面からの高さは約2~3m程度。欄干がない分、川の流れがダイレクトに伝わってきて迫力満点です。なお佐田沈下橋から三里沈下橋の間には観光遊覧船も運行しています。

そんな四万十川の夏といえば、天然うなぎ。

4月から漁が解禁となります、近年は漁獲高も減少傾向にありますが、竹や木でできた長い筒状の箱を川底に仕込んでおく「コロバシ漁」や、川底を掘って石を重ね置く「イシグロ漁」、枝の束を川底に潮境に沈める「柴づけ漁」などの伝統漁法も健在。

一方で安定的に供給するため、四万十川の河口で獲れたうなぎの稚魚を、四万十川の伏流水で育てた"ほぼ天然"ものも需要があります。

その日の獲れ高にもよりますが、四万十市では夏に天然うなぎを提供する飲食店が数多くあり、蒲焼きや白焼きで楽しむ観光客の姿もよくみられます。まさに四万十川は、いつまでも残したい"風景"であると同時に、いつまでも残したい"味覚"の産地です。

続いての名勝は北海道、積丹半島の先端に位置する積丹町。海が穏やかになり透明度が増す夏の海は"積丹ブルー"と呼ばれる美しさに包まれます。

海岸に沿って断崖絶壁や巨岩、岬が多いことから風光明媚なスポットに事欠きません。中でも近年、SNSなどで注目を集めているのは神威岬(かむいみさき)。

海にせり出した高さ80mの岬で、遊歩道「チャレンカの小道」が伸びています。その先端は周囲300度が見渡せる絶景スポット。この地に伝わる伝承にならい、明治時代初期まで遊歩道は女人禁制でしたが、今では誰でも立ち入ることができます。岬の先、海の中にポツンと垂直に立つ神威岩も必見です。

そんな積丹のグルメといえば、なんといってもウニ。毎年6月上旬に漁が解禁となり、8月末まで続きます。濃厚なコクがあるエゾバフンウニやムラサキウニがふんだんに乗ったウニ丼は夏の人気メニュー。思えばウニほど"現地で食べる"ことを推奨したい食材はありません。保存や輸送時に身崩れを防ぐミョウバンを使用していない、まっさらのウニの味は絶品の一言です。

神威岬や島武威海岸(しまむいかいがん)の周辺には、うに料理に舌鼓を打てる飲食店がいくつもあり、夏の積丹観光の目玉のひとつになっています。北の大地の美しい海を、この夏ぜひご堪能ください。
天然うなぎ(四万十川観光協会)
どっこい積丹(積丹観光協会)

続いては、瀬戸内海に浮かぶ淡路島。夏は色濃い緑と胸のすくような海の色が美しく、どこを切り取っても絵になる風景が広がっています。

中でもおすすめなのが兵庫県立公園「あわじ花さじき」。島北部の丘陵地の頂上部、海に向かってなだらかに広がる高原に四季折々の花が咲き誇ります。

夏になると約20万本のひまわりをはじめ、淡いパステルカラーのクレオメ、真っ赤なサルビア、鮮やかな青のブルーサルビアなどが畑いちめんに咲き誇ります。特にひまわりは緩やかな傾斜地に広がっているため、奥行きや眺望を楽しめるところが魅力。はるか遠くに広がる瀬戸内海も望めます。まさにその名のとおり、花を眺める「さじき席」といえるでしょう。

そんな淡路島の夏の味覚は、鱧(はも)。鱧と言えば京都が有名ですが、獲れるのは瀬戸内海。江戸時代、淡路島の南に浮かぶ小さな島、沼島(ぬしま)の漁師が「なかばえ」というはえ縄漁を発明し、さらに他の漁師が改良を重ねて多く水揚げされるようになりました。料亭文化が栄えた京都で「骨切り」技術が生まれたことで、高級魚の仲間入りを果たします。

骨切りを施し、梅肉で食べることが一般的ですが、そこに名産品の玉ねぎと合わせるのが淡路島流。島内の複数の飲食店や旅館で味わうことができます。

最後にご紹介するのは秋田県の南部、にかほ市の象潟(さきかた)町。かの松尾芭蕉が「おくのほそ道」で訪れ、一句詠んだ最北の地です。芭蕉の心を打ったのは、小高い丘から望む「九十九島(くじゅうくしま)」と呼ばれる風景。海に浮かぶ島ではなく、鳥海山のふもとに点在する100を超える小さな丘が、田園地帯に浮かぶ島のように見えます。かつては実際に島だったそうですが、江戸時代の地震によって土地が隆起し、陸地になったそうです。この風景は国の天然記念物に指定されています。

現在、その風景を一望できる位置に、道の駅「ねむの丘」があります。同施設は東北では最大級の規模を誇る道の駅。1年を通じて多くの人が訪れていますが、初夏から夏にかけて訪れる方の多くは、天然の岩牡蠣がお目当てです。象潟町の小砂川漁港では6月から岩牡蠣の素潜り漁が解禁となり、8月中旬まで続きます。鳥海山から海へ注がれる、ミネラルを豊富に含んだ水と、海底から湧き出る伏流水が適温を保ち、大ぶりで身が引き締まった岩牡蠣が育ちます。

「おくのほそ道」で象潟を知った文人墨客の多くがこの地を訪れ、牡蠣を食したといわれています。その風景と味覚をぜひ満喫してみてはいかがですか。
淡路島の鱧(淡路島観光ガイド)
にかほ市観光案内
若桜鉄道は、鳥取県八頭町と若桜町を結ぶ19.2kmの小さな鉄道。昭和5年に国鉄若桜線として開業し、木材の輸送や地域の人びとの貴重な足として運行を続けてきました。そんな同鉄道が今、多くの鉄道ファンや鉄道旅行好きな方を惹きつけているのは、多くの施設が開業当時の姿のまま残っていることに他なりません。

『駅舎や橋梁、プラットホームなど23の鉄道関連施設が国の登録有形文化財に登録されています。かつては蒸気機関車が定常運行していましたから、人力で回す転車台や蒸気機関車に水を供給する給水塔なども残っています。また、この一帯は豪雪地帯でもありますので、落雪から線路を守る雪覆や、除雪された雪を流す流雪溝も国の登録有形文化財に登録されています。昭和7年に建てられた安部駅の駅舎は、かつて映画監督の山田洋次さんが惚れ込み「男はつらいよ」シリーズにもロケ地として登場しました。今でも駅舎には記念プレートが掲げられ、寅さんの妹の名前にちなんで当時植樹された桜の木も残っていますよ』(矢部さん)

まるで若桜鉄道そのものが"鉄道ミュージアム"のようですね!

『蒸気機関車「C12」の展示運転や体験運転、そしてディーゼル機関車「DD16」の体験運転も行っていて、鉄道ファンの方やご家族連れの方からご好評をいただいています。また、鉄道ではありませんが、隼(はやぶさ)駅がスズキのバイク「隼」と同名ということもあって、バイク好きな方も多くいらっしゃいますね』(矢部さん)

バイク好きの方が集う駅は、なかなか珍しいかもしれません。沿線のおすすめスポットはどこになりますか?

『「徳丸どんど」と呼ばれる滝があります。八東川の中にある自然滝で、全国的にも珍しい風景を作り出しています。若桜鉄道の橋梁が架かっていますので、ちょうど車輛が来た瞬間にシャッターを切ると、のどかな山々の背景も相まって素敵な写真が撮れますよ。ちなみに画像に写っている車輛はロイヤルレッドのカラーが特徴的な「八頭号」です。他に「若桜号」「昭和号」があり、いずれも水戸岡鋭治さんのデザインです。窓には木枠が備え付けられていて、田舎の美しい風景を絵画として額装されているように感じますよ』(矢部さん)

まさに古き良き日本の風景ですね。一方で、沿線でおすすめのグルメがありましたら教えてください。

『若桜駅前にある「やまね屋」さんの「さば重定食」や「とんかつ新(あらた)」さんの「とんかつ定食」が人気です。また、八頭町は梨やぶどうなどフルーツ栽培も盛んです。「はっとうフルーツ観光園」さんでは秋になると梨、ぶどう、りんごなどのフルーツ狩りを楽しむことができますよ。また、11月になるとこのあたりは柿ですね。「花御所柿」という甘柿の産地でもあり、葉を落として実だけがたわわになっている姿は花が咲いたような景色に見え、車窓からも望めます』(矢部さん)

季節ごとに訪れたくなります!最後に、旅を計画している方々に向けてメッセージをいただけますか?

『「東京から始発の新幹線のぞみで来ました!やっと"わかてつ"に乗れました!」という鉄道ファンの方も多くお越しになる一方で、今年の春は「桜を見に来ました!」という海外のご夫婦もいらっしゃいました。多くの方に、乗り降り自由の「一日フリー乗車券」や親子で1日楽しめる「親子きっぷ」もご活用いただきつつ、今なお残っている日本の昭和時代の原風景を満喫していただきたいですね』(矢部さん)

お話ありがとうございました!短い路線ながら多くの人びとを惹きつける若桜鉄道の旅、ぜひお出かけください!
詳細は駅すぱあと改訂情報をご覧ください。
次回2024年8月号は、2024年7月31日(水)配信予定です。お楽しみに!
メールマガジン配信の登録・変更・停止
お手持ちの『駅すぱあと』登録番号とパスワードをご用意ください。
https://secure.ekiworld.net/eworld/menu/menu.do?event=18
発行  株式会社ヴァル研究所 https://www.val.co.jp/
発行日 2024年6月26日(水)
お問い合わせ https://ekispert.jp/contact/
本メールは『駅すぱあと』登録ユーザーの方でメール配信をご希望されたお客様にお送りしています。


当社の個人情報保護方針ならびにポリシーについては以下をご覧ください。
<個人情報保護について> https://www.val.co.jp/privacy

この記事は役に立ちましたか?

他にご質問がございましたら、Webフォームからお問い合わせください